2012年8月28日火曜日

内村さんのデンマークの話まとめ。

ちょっと長いかもしれませんが、最後の方を読まれると、内村さんの言いたい事がわかってくると思います。

信仰心というものが、国をどう動かして行ったか。敗戦後の日本と重なって思えたような気がします。

私は宗教というものをあまり信じる方ではないけれど、信仰心というものがどう影響するかってことにはとても興味があります。

また内村さんの本を紹介していこうと思いますが、今回は少し読みやすくするために、改行を入れたり、フォントを見やすくかえてみました。

前回よりも文体も読みやすく、しかも内容もとても面白いので、何度でも読めてしまうのではないでしょうか。

2012年8月26日日曜日

デンマルク国の話、その17

第三に信仰の実力を示します。国の実力は軍隊ではありません、軍艦ではありません。はたまた金ではありません、銀ではありません、信仰であります。このことにかんしましてはマハン大佐もいまだ真理を語りません、アダム・スミス、J・S・ミルもいまだ真理を語りません。このことにかんして真理を語ったものはやはりふるい『聖書』であります。


もし芥種からしだねのごとき信仰あらば、この山に移りてここよりかしこに移れとうとも、かならず移らん、また汝らにあたわざることなかるべし

とイエスはいいたまいました(マタイ伝一七章二〇節)。また
おおよそ神によりて生まるる者は世に勝つ、われらをして世に勝たしむるものはわれらの信なり

と聖ヨハネはいいました(ヨハネ第一書五章四節)。世に勝つの力、地を征服する力はやはり信仰であります。ユグノー党の信仰はその一人をもってすき樅樹もみのきとをもってデンマーク国を救いました。よしまたダルガス一人に信仰がありましてもデンマーク人全体に信仰がありませんでしたならば、彼の事業も無効に終ったのであります。この人あり、この民あり、フランスより輸入されたる自由信仰あり、デンマーク自生の自由信仰ありて、この偉業が成ったのであります。宗教、信仰、経済に関係なしととなうる者は誰でありますか。
宗教は詩人と愚人とにくして実際家と智者に要なしなどと唱うる人は、歴史も哲学も経済も何にも知らない人であります。国にもしかかる「愚かなる智者」のみありて、ダルガスのごとき「さとき愚人」がおりませんならば、不幸一歩を誤りて戦敗の非運に遭いまするならば、その国はそのときたちまちにして亡びてしまうのであります。国家の大危険にして信仰を嘲りこれを無用視するがごときことはありません。私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄けいちょうふはくの経世家をいましむべきであります。

2012年8月25日土曜日

デンマルク国の話、その16

第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼とうしょにもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸のぬしかならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸にさるの産を産するのであります。
ゆえに国の小なるはけっしてなげくに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤なみにもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。しかり、それよりも小なる国で足ります。そとひろがらんとするよりはうちを開発すべきであります。

2012年8月24日金曜日

デンマルク国の話、その15

今、ここにお話しいたしましたデンマークの話は、私どもに何を教えますか。

 第一に戦敗かならずしも不幸にあらざることを教えます。国は戦争に負けても亡びません。実に戦争に勝って亡びた国は歴史上けっしてすくなくないのであります。国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。いな、その正反対が事実であります。牢固ろうこたる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは実にその善き実例であります。

2012年8月23日木曜日

デンマルク国の話、その14

かくのごとくにしてユトランドの全州は一変しました。すたりし市邑しゆうはふたたび起りました。新たに町村は設けられました。地価は非常に騰貴とうきしました、あるところにおいては四十年前の百五十倍に達しました。道路と鉄道とは縦横たてよこに築かれました。わが四国全島にさらに一千方マイルを加えたるユトランドは復活しました、戦争によって失いしシュレスウィヒとホルスタインとは今日すでにつぐなわれてなお余りあるとのことであります。

 しかし木材よりも、野菜よりも、穀類よりも、畜類よりも、さらに貴きものは国民の精神であります。デンマーク人の精神はダルガス植林成功の結果としてここに一変したのであります。失望せる彼らはここに希望を恢復しました、彼らは国をけずられてさらに新たに良き国を得たのであります。しかも他人の国を奪ったのではありません。己れの国を改造したのであります。


自由宗教より来る熱誠と忍耐と、これに加うるに大樅
おおもみ小樅こもみの不思議なる能力ちからとによりて、彼らの荒れたる国を挽回ばんかいしたのであります。


ダルガスの他の事業について私は今ここに語るの時をもちません。彼はいかにして砂地すなじを田園に化せしか、いかにして沼地の水をはらいしか、いかにして磽地いしじひらいて果園を作りしか、これ植林に劣らぬ面白き物語ものがたりであります。これらの問題に興味を有せらるる諸君はじかに私についてお尋ねを願います。

2012年8月21日火曜日

デンマルク国の話、その13

しかし植林の善き感化はこれにとどまりませんでした。樹木の繁茂は海岸より吹き送らるる砂塵すなほこりの荒廃をめました。北海沿岸特有の砂丘すなやまは海岸近くに喰い止められました、もみは根を地に張りて襲いくる砂塵すなほこりに対していいました、

ここまではきたるをべし
しかしここを越ゆべからず

と(ヨブ記三八章一一節)。北海にひんする国にとりては敵国の艦隊よりも恐るべき砂丘すなやまは、戦闘艦ならずして緑の樅の林をもって、ここにみごとに撃退されたのであります。

 霜は消え砂は去り、その上に第三に洪水の害は除かれたのであります。これいずこの国においても植林の結果としてじきに現わるるものであります。もちろん海抜六百尺をもって最高点となすユトランドにおいてはわがくにのごとき山国やまぐににおけるごとく洪水の害を見ることはありません。しかしその比較的に少きこの害すらダルガスの事業によって除かれたのであります。

2012年8月20日月曜日

デンマルク国の話、その12

しかし植林の効果は単に木材の収穫にとどまりません。第一にその善き感化をこうむりたるものはユトランドの気候でありました。樹木のなき土地は熱しやすくしてめやすくあります。ゆえにダルガスの植林以前においてはユトランドの夏は昼は非常に暑くして、夜はときに霜を見ました。


四六時中に熱帯の暑気と初冬の霜を見ることでありますれば、植生はたまったものでありません。その時にあたってユトランドの農夫が収穫成功の希望をもってゆるを得し植物は馬鈴薯、黒麦、その他少数のものに過ぎませんでした。しかし植林成功後のかの地の農業は一変しました。夏期の降霜はまったくみました。


今や小麦なり、砂糖大根なり、北欧産の穀類または野菜にして、成熟せざるものなきにいたりました。ユトランドは大樅おおもみの林の繁茂のゆえをもって良き田園と化しました。木材を与えられし上に善き気候を与えられました、植ゆべきはまことに樹であります。