2012年8月16日木曜日

デンマルク国の話、その8

ユトランドはデンマークの半分以上であります。しかしてその三分の一以上が不毛の地であったのであります。面積一万五千平方マイルのデンマークにとりましては三千平方マイルの曠野は過大の廃物であります。これを化して良田沃野となして、外に失いしところのものを内にありてつぐなわんとするのがそれがダルガスの夢であったのであります。


しかしてこの夢を実現するにあたってダルガスのるべき武器はただ二つでありました。その第一は水でありました。その第二はでありました。荒地に水をそそぐを得、これに樹を植えて植林の実を挙ぐるを得ば、それでことは成るのであります。ことはいたって簡単でありました。しかし簡単ではあるが容易ではありませんでした。
世にぎょし難いものとて人間の作った沙漠のごときはありません。もしユトランドの荒地がサハラの沙漠のごときものでありましたならば問題ははるかに容易であったのであります。天然の沙漠は水をさえこれにそそぐを得ばそれでじきに沃土よきつちとなるのであります。


しかし人間の無謀と怠慢とになりし沙漠はこれを恢復するにもっとも難いものであります。しかしてユトランドの荒地はこの種の荒地であったのであります。今より八百年前の昔にはそこに繁茂せる良き林がありました。しかしてくだって今より二百年前まではところどころに樫の林を見ることができました。しかるに文明の進むと同時に人の欲心はますます増進し、彼らは土地より取るにきゅうにしてこれにむくゆるにかんでありましたゆえに、地は時を追うてますます瘠せ衰え、ついに四十年前の憐むべき状態ありさまに立ちいたったのであります。


しかし人間の強欲をもってするも地は永久に殺すことのできるものではありません。神と天然とが示すある適当の方法をもってしますれば、この最悪の状態においてある土地をも元始はじめの沃饒に返すことができます。まことに詩人シラーのいいしがごとく、天然には永久の希望あり、壊敗はこれをただ人のあいだにおいてのみ見るのであります。

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